「うつ病」とは
うつ病とは、精神的なストレスや身体的なストレスなど様々な原因から、病的に脳機能が低下して気分の落ち込みが続くようになったり様々な身体の症状が出たりする病気です。
うつ病の患者さんの数は近年増加傾向にあり、日常でも耳にする機会の多い病気となりました。働く人たちの職場でのストレスによるうつ病はよく注目されますが、妊娠・出産・更年期のホルモンバランス変化による女性のうつ病、高齢者から若者までと発症する可能性は幅広く存在します。不況や失業率といった社会的背景の後押しもあり、今後も増えていくことが懸念されています。
うつ病のデータ:16人に1人が生涯で発症
調査にもよりますが、生涯のうちにうつ病になる確率は6%前後とされ、これは約16人に1人が発症する計算になります。厚生労働省の平成29年度の患者調査では、うつ病を含む気分障害の患者数は127万人に達すると報告されています。また、男女では女性の方が2倍かかりやすいとされています。
うつ病では年齢や性別によって患者さんの人数に違いが見られます。特に女性では、更年期の前後となる50歳前後と、高齢者に差し掛かるる65歳を中心に患者さんが増えるとされています。
双極性障害(躁うつ病)とは気分変化の仕方が異なる
双極性障害もうつ病と同じく気分障害に分類される病気です。うつ病が抑うつ的な気分のみが目立つのに対して、双極性障害は気分の落ち込みと、反対に気分の高まり(躁状態)が繰り返し現れる病気です。どちらも患者さん1人1人の病状に合わせて治療を行っていくことが大切になります。
うつ病の症状
精神症状
うつ病の中心となる症状です。気分の落ち込みや意欲の低下、不安やイライラ、集中力の低下や悲観的な思考に陥ります。うつ病の診断では主にこれらの精神症状の聞き取りを行い、総合的に判断します。また、これらの症状の重さは時間により変化するという特徴があり、治療の際はその点を考慮して長期的に行っていくことが重要となります。
身体症状
うつ病では強いストレスや脳機能の低下から自律神経のバランスが崩れ、それに応じた身体の症状がよく現れます。特徴的なのが睡眠障害で、90%と多くのうつ病患者さんに見られます。他には食欲減衰、体のだるさ、下痢や便秘など様々な症状があります、下の図もご覧ください。
MIZENクリニック豊洲でのうつ病診断
現在うつ病の診断は、アメリカ精神医学会による「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)」と世界保健機関(WHO)による「ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版)」を主に用いて判断します。
この記事では参考としてDSM-5の診断基準を掲載します。下記の9項目のうち、1または2を含む5つ以上の症状が2週間以上続く事がうつ病診断の基本となります。
- ほとんど1日中、ほぼ毎日の抑うつ気分。
- ほとんど1日中、ほぼ毎日の、活動における興味や喜びの著しい減退。
- 食欲が低下あるいは過剰となり、激しい体重変化がある。
- ほとんど毎日、不眠または睡眠過多。
- ほとんど毎日、精神運動性の焦燥または制止
- ほとんど毎日、疲れやすさや気力の減退がある。
- ほとんど毎日、自分を無価値だと思い、または過剰な罪責感を感じる。
- ほとんど毎日、思考力や集中力の低下、または決断ができない。
- 反復的に自傷や自殺を考え、またはその計画を立てる。
MIZENクリニック豊洲でのうつ病治療
休養
うつ病では脳機能が低下して正常な思考が妨げられている状態になります。仕事や家庭でのトラブルなど、環境的あるいは社会的な要因が大きな意味を持つ病気ですので、まずはストレスの原因から離れて一度心身をしっかりと整えることが大切です。しっかりとした休養自体が重要な治療であり、またもう1つの重要な治療である薬での治療の効果も十分に引き出すことが可能です。
向精神薬療法
うつ病において休養と並ぶ治療の柱です。向精神薬は精神科で処方される薬の総称で、うつ病の治療では抗うつ薬(SSRI,SNRI,NaSSAなど)を中心に抗不安薬や睡眠薬を用います。これらの薬は患者さんの症状や副作用に応じて使い分けます。
薬の治療で大切なことは、必要な期間内は薬をしっかり飲み続けることです。眠気や便秘、吐き気といった抗うつ薬の副作用もありますが、一方で薬の効果が現れるまで2週間程度と長い時間がかかる事から効果の実感が薄く、薬を中断してしまうケースが少なくありません。また、症状が改善してもすぐに薬をやめてしまうと再発の原因になるので、薬の減量や中断タイミングは医師と相談して計画的に進めましょう。
認知行動療法などの精神療法
うつ病になると日常の出来事を過度に悲観的に捉えてしまう傾向が見られます。そのようなときに1人で考えすぎると、どんどん気分が落ち込んでいく可能性があります。精神療法では、医師やカウンセラーがお話を伺って、患者さんの気持ちを理解するとともに、原因になっている出来事や環境を整理して、過度に悲観的にならずに過ごせるようなサポートをします。認知行動療法とは、このような精神療法の一種で、患者さんの過度に悲観的に考えてしまう傾向を捉えて、物事を客観的に正しく捉えられるようにサポートをするものです。
うつ病の再発と予防
うつ病の治療のポイントは再発をしないように、慌てずにしっかり最後まで治療をすることです。うつ病は症状がおさまったとしてもしてもすぐに治療を中断してしまった場合は、60%が再発すると言われています。
また、再発を重ねる度にさらに再発の可能性が高まるとされていて、悪循環にはまってしまいます。一方で、症状が良くなってもすぐに治療を中断して無理をせずに、適切な治療を半年から1年程度継続する事で再発率を十分に下げられる事が報告されています。
その期間はたとえ症状がなくても薬を継続することが重要で、これまでに再発があった場合にはその点も考慮して、医師と相談しながら服薬量を徐々に減らしていきます。
参考文献
- 日本うつ病学会.「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016 」.2019.
- 川上憲人.「精神疾患の有病率等に関する大規模疫学研究:世界精神保険日本調査セカンド総合研究報告書」.2016
- 厚生労働省.「みんなのメンタルヘルス 双極性障害(躁うつ病)」
- 厚生労働省.「患者調査 / 平成29年患者調査 上巻(全国)61 総患者数,性・年齢階級 × 傷病分類別」.e-Stats.2019-03-01
- 松尾幸治.うつ病性障害(うつ病) In:今日の治療指針 2020年版.東京:医学書院.2020.
- CBTセンター.「認知行動療法とは」